贈る物語 TERROR

連日茹だるような猛暑の中、故障したエアコンを新品に取り替え机の前に座って読書することも楽になった。数年前からエアコンが故障していながらそのまま放置して毎夏を乗り切ってきたが、今までこの暑さの中どうやって過ごしていたのだろう。100年後に日本は温暖化の影響で一年の半分は熱帯性気候になるんじゃないか。
宮部みゆきがアソートしたホラー小説のアンソロジー化物語神原駿河に憑依した怪異の元ネタ『猿の手』が最初に収録されている。有名な作品らしいのだが、読むのは初めてだ。心胆を寒からしめる恐怖に老夫妻を襲う物悲しい悲劇・寓話性を加味した佳品である。
宮部みゆきによる各話解説は本編に負けず伎倆が優れていて適切だ。フィリップ・K・ディックの中編『変種第二号』とその解説に触発され、ディックの他の作品も当たってみる気になった。

ディックが作家生涯を通じて追求したテーマのひとつは、「人間と人間にあらざるものを、どこで境界線を引いて判別するのか」(あるいはそんなことが可能なのか)ということでした。本作品では、それがSF的というよりはミステリー的な仕掛けとして使われ、結末で読者を仰天させます。ただ、変種第二号の正体が割れてからラストまでの短い文章に漂う絶望感と、行間から溢れ出るそれに対する抗議と警告の悲鳴は、SFとして見てもミステリーとして見ても、けっして知的な娯楽の範囲に留まるものではないと思います。

リドリー・スコット監督『ブレードランナー』も好きな映画の一つだし、ディックとは波長が合いそうだ。

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