アイの物語

山本弘といえばトンデモ本をプロデュースしたと学会会長としての活動は以前より知ってはいたものの、本業のSF作家としての著作を手にするのは本作が初めてだった。人類が衰退し機械が君臨する未来。とはいってもディストピア物語ではなくユートピア物語でもない、そのどちらともとれる小説だ。論理的な文章構造を終始堅持しながらロボットと人間との関係を表現し、エピローグまで読み終え本を机の上に置いたとき深い納得と読後感を残す。そうか、「人類という種は地球の重力に縛られ続け、他のたくさんの知的種族の存在も知らないまま、ひとつの星の上で孤独に朽ち果てていく」のか。生命体としてのスペックが夢を実現するのに足りなかったから。人が到底到達し得なかった高みに向かって、人の代わりに人類の夢をロボットが継承し外宇宙・銀河系・別の銀河へと広がっていく。人のフィクションから生まれたロボットが人の永遠の夢を実現しようとしている。終盤畳みかけるように繰り出されるSF的ガジェットが好奇心を刺激する効果的なジャブを放ちスウェーする間もなく魅惑され新世紀エヴァンゲリオン以来の近来稀な心地よいSF体験を味わうことができた。

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