辛酸なめ子の現代社会学

複雑多様化する社会の中、現代人たちはどのように社会とつながりを持ち、日々を送っているのか。モテブーム、純愛ブーム、スローライフ、○○王子、KY、モンスターペアレント、萌えブームなどなど、世の中を駆け抜け盛り上げた社会現象をテーマに、実地を歩き体験し話を聞き写真を撮り文章を纏めエッセンスとして漫画に昇華した。著者の行う取材の数々は名付けるなら現代社会学と呼べるものばかりというが、現代版宇治拾遺物語のようでもある。中でも最も興味深かったテーマは萌えトレである。萌えの定義については様々な解釈がある。本書では『オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史』の定義「イノセントなものへの欲望」とほぼ同様の結論「萌えとは、羞恥心の入り交じった性欲である」に至っている。

 日本を覆い尽くす「萌え」とはいったいどんな感情なのでしょう。ウィキペディアによると、「アニメ・漫画・ゲーム等様々な媒体における、対象への好意・恋慕・傾倒・執着・興奮などある種の感情を表す言葉である」と説明されています。この回りくどい書き方・・・・・・きっと奥手なA-BOY(アキバ系男子)が書いているのでしょう。はっきり、「性欲」とか「ムラムラする」とか書いてほしいです。今まで萌えの周辺を取材して思ったのは、「萌え」とは、羞恥心の入り交じった性欲である、ということです。萌え系の女子キャラの多くは、頬を紅潮させて照れています。男性のリビドーを感じて怯える小動物のようです。そんな自分よりか弱くていたいけな存在に対して、男性は性欲を感じるのですが、それを認めたくない、素直になれない気持ちがあって、照れまじりの性欲を「萌え」という言葉に言い換えているのです。ギラギラした直球の性欲を抱く肉食男子は「萌え」という、シャイな感情が理解できません。それが如実に表れているのは、出会い系の広告の、ティッシュや雑誌に印刷されたイラストです。今の流行に乗ろうとして、萌えキャラを描こうとしているのですが、たいていうまくいっていません。肉食男子の出会い系業者の感覚では、繊細な萌えキャラは再現できないのでしょう。

ヘタウマ調の絵柄と相俟って、社会批評に相応しい皮肉なスパイスで調理した文章やネームは諧謔が効いており、分析は明解だ。

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史

辛酸なめ子の現代社会学

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