もらい泣き

実話を元に創作された泣けるショートストーリー集。ただ物語全体を通して読むと、お涙頂戴物を集めただけではない仕掛けが施されている、あるいは施されているかもしれない凝った体裁に唸らされる。第1話ではテレビ局に勤める女性が登場する。彼女の元に同じような話がうじゃうじゃ集まり、しかもデスクの引き出しの数だけで間に合うパターンしかない。意外性とか独創性はとかそんなのとは全然無縁。人間みんな同じことを考えるのねとそっちの方に感心しちゃう。そんなわけだから何を聞いても笑えるそうである。べたという言葉は、ひねりや工夫がない、直球勝負、わかりやすいなどニュアンスが変わる言葉で、泣きとべたは枕詞並に関係が深い。泣ける話の冒頭にいきなりべたなストーリーを相対化し否定する内容を持ってくる、なかなか意外性のある構成だ。その後、本の終わりまで同じようなパターンの話が延々と続き、読んでいる内にテレビ局女性の言うとおり笑えてくるのだ。後書きでも人の心は千差万別だが、大本ではやはりみなどこか似ていると人間が泣けるパターンに言及している。収集したエピソードの中で、「家族」「信頼」「恋愛」「病気・怪我」「動物」「死別」に纏わる話が多かった。それら六つの柱が存在し、様々なバリエーションがそこから生まれている。人の心の普遍性が共感を生むことを考えればパターンに自覚的であることは創作において有利な点だ。小説家の性として人の感情を揺さぶる手法に自覚的にならざるをえず、本書を読了した読者もまたその視点を遂には共有することになる。泣ける話を読んでいたはずなのに笑わせられたり泣ける話を相対化させられたりテレビ局に勤める女性の体験を追体験させられた気分だ。冲方丁が意図的にこうした入れ籠構造を採用したのなら懐に刃を隠し持つ腹黒いトリッキーなストーリーテラーと呼んでも差し支えないだろう。

もらい泣き

もらい泣き

大学の実力 2013

アメリカ、ヨーロッパ、韓国では退学率をきちんと公表してきた。だが日本では長らく退学率が公表されてこなかった。大学側が風評被害を恐れて100年以上もこの大事な数字が隠されたままだったのだ。それぞれの大学の退学率が日本で公表されたのは2008年の「大学の実力」調査がはじめてだった。早稲田は調査に応じていないのでデータがない。これでは数字が表に出せないほど悲惨であると公言しているようなものだ。退学しようと留年しようと悪怯れないところが早稲田らしさだと思うので、臆することなく公表してもらいたい。データを読み解くチェックポイントはデータそのものよりも参考になる。

大学の実力 2013 (暮しの設計)

大学の実力 2013 (暮しの設計)

魔法少女まどか☆マギカ The Beginning Story

魔法少女まどか☆マギカ』の全台詞に加えて第0稿、絵コンテ解説、虚淵玄新房昭之スタッフ=インビューが収録されており、虚淵玄のシナリオを改めて振り返り、映像では不明のト書きに何が書かれていたのか知ることができる。ファンには必携の解説本だ。

魔法少女まどか☆マギカ The Beginning Story

魔法少女まどか☆マギカ The Beginning Story

ビアンカ・オーバースタディ

筒井康隆の名作『時をかける少女』がセルフパロディを施されて蘇った。ヒロインが学校一可愛い美少女である描写がしつこいくらい繰り返される。ライトノベルでは冒頭でヒロインがどれだけ可愛いか読者に明確にくどいくらいに提示するラノベ独特の文法を、パロるあるいは揶揄する。ラノベの体裁を取っていてもいつもの筒井康隆の文章である印が端々から酌み取れた。

ビアンカ・オーバースタディ (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバースタディ (星海社FICTIONS)

さよなら妖精

アニメ『氷菓』を見てはじめて日常の謎系ミステリーの存在を知った。本書もその系譜に連なるミステリーだ。といっても私はミステリーや推理にはさして興味がない。米澤穂信作品は高校生らしからぬ屈託・鬱屈・諦念・無力感を抱えた心理描写に特徴がある。あえてカタルシスに背を向けようとするかのように捻挫している。『氷菓』の千反田える伊原摩耶花といった可愛らしいヒロインが大いに魅力を引き立ててくれないと読み続けるのは難しい。『さよなら妖精』が今ひとつである理由はアニメ補正が入ってないからだろう。活字だと映像ほど萌えられない。日常の謎は活字だと地味で味気ないが、アニメの中でリアリティを獲得すると、リアリティそのものがアドバンテージとなり感情移入の手助けとなる。現実にもありそうな事件と視聴者に思わせられたら地味なリアリティに却って高得点が入る。そのためには作画・演出が優れていなければならないけれど、アニメ『氷菓』は見事な出来映えで、京アニ制作にして正解だった。この作者の小説はアニメ化すると大化けする予感がする。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

のうりん

農業高校を舞台にしたラブコメディー。ネットでの評判はいいようなのだが、典型的なキャラクターとテンプレートに準じたストーリーなのでその方面への期待はできそうにない。見所は作者が農業高校に取材し様々な人たちに協力して貰って仕入れた農業・畜産に関するトリビア、アニメのパロディ、暴走するエッチな妄想だ。

のうりん (GA文庫)

のうりん (GA文庫)

あなたを天才にするスマートノート

毎日見開き2ページ書き込むことで論理的思考力を身に付け秀才に、更に人間的な面白さが加わり天才になれるノート術を開示する。岡田斗司夫の定義する天才の三要素とは、発想力・表現力・論理力だ。この三つを体得することがスマートノートを活用して目指す目標である。
ところで「その結果、大学を卒業する頃には本は増えに増え」との記述があるが、ウィキペディアを参照すると大阪電気通信大学を除籍になったと書かれている。どちらが本当なのだろう。

あなたを天才にするスマートノート

あなたを天才にするスマートノート